136日間におよぶ予測不能な「即興」的インスタレーション

大友良英は、フリージャズ、即興演奏、ノイズ音楽、映画音楽など国内外の多彩なシーンで活動し、常に表現の可能性とアンサンブルのあり方を拡張する試みに取り組んできた音楽家の1人です。本展は、大友の創作の基軸であり、アンサンブルの発想の根底にもある「即興」をテーマに、大友とYCAM、そしてさまざまなジャンルのアーティスト5名とのコラボレーションによる新作展です。磯崎新設計によるYCAMの建物の特徴や周囲の環境、そして市民の創造性と呼応しながら、多彩な音や存在がぶつかり合い、響き合う、即興の豊かな世界を開いていきます。

1.

大友良英「即興」の集大成となる大規模展

大友にとって「即興」は、創作の発想の根幹にあるものです。あらかじめ決められたものを再現するのではなく、演奏が行われる場を構成する共演者や聴衆、環境などのさまざまな要素との相互作用により、生成される表現や、コミュニケーションを基盤とすることが大友にとっての「即興」です。単に個人の表現として作品があるのではなく、多くの人々の即興的ともいえる協働の結果として作品が生まれるという考え方がその根底にあります。本展は大友にとっての「即興」という考え方やその実践を、展示作品として集大成し、表現やコミュニケーション、人や社会との繋がり方として「即興」的であることの意義を問いかけます。

展覧会ロゴ「即興!」デザイン:垂井美穂
展覧会ロゴ「即興!」デザイン:垂井美穂

大友良英から本展開催に向けてメッセージ

Message from Otomo Yoshihide for the Exhibition

今回の展示のテーマは「即興!」です。
2008年にYCAMと本格的なコラボレーションを行った「ENSEMBLES」展は、私の創作において大きなターニングポイントにもなった作品で、多様な人々との「協働 = アンサンブル」が当時の大きなテーマでした。震災やパンデミックを経て、「協働 = アンサンブル」をより豊かなものにするのは「即興」ではないか、そんな思いを強くしています。 私の音楽にとって「即興」は根っこと言えるくらい大切なものですが、多くの創作にとって、もっと言ってしまえば、この先の社会にとっても「即興」はとても重要なもの、根本にあれば社会はより豊かになるもの、そう思うようになりました。
前回の展示から18年の時を経て、私自身の出発点を見つめることになるであろう「即興」をテーマに、YCAMやさまざまな人たちとの新たなアンサンブルを始めたいと思います。

The theme of this exhibition is “IMPROVISATION!” The “ENSEMBLES” exhibition, my full-scale collaboration with YCAM in 2008, was a major turning point in my creative work, and “collaboration = ensemble” with diverse people was the overarching theme at the time. Having gone through the 2011 earthquake disaster and the pandemic, I have come to strongly feel that it is “improvisation” that makes “collaboration = ensemble” far richer. While “IMPROVISATION” is vital enough to be considered the root of my music, I have come to believe that it is also crucial for many creative endeavors — and even more so, for our future society. If improvisation serves as a foundation, society will become much richer. Eighteen years after the last exhibition, I would like to begin a new ensemble with YCAM and various people, themed on “IMPROVISATION” — which will surely mean looking back on my own starting point.

2.

美術家、持田敦子とのコラボレーション

空き家の解体過程に介入し、その場所にある固有の空間と時間をダイナミックに変容する作品で注目を集める美術家、持田敦子。大友の音楽とノイズ、持田の作品が内包する生成と瓦解の相反する要素がぶつかり合い、せめぎあい、そして響き合う、今までにない新しい空間体験が新作《Dance》として結実します。

Photo:板倉勇人 / Itakura Hayato(YCAM)

持田敦子から本展開催に向けてメッセージ

Message from Mochida Atsuko for the Exhibition

家は個人と社会の間にある最小単位の社会といえます。その空間や構造を躍動させて、誰もが持つ家に対する感覚をダイナミックに変容させる作品をつくってきました。今回は日本でもハイレベルの設備とスタッフが揃ったYCAMで、普段はできないような規模感で動きのあるパフォーマティブな作品にチャレンジします。不安定な大地の上で、しなやかに踊るような作品を、大友さんといっしょに楽しみながら作っています。

A house could be described as the smallest social unit, standing between the individual and society at large. By energizing its space and structure, I’ve made work that dynamically transforms the sense of home that everyone carries. This time at YCAM — with facilities and staff that are exceptional even by Japan’s high standards — I’m challenging myself with a dynamic, performative piece at a scale I don’t usually get to work at. Together with Otomo, I’m enjoying the process of creating a work that dances with supple grace atop unstable ground.

3.

トリビュート作品 坂本龍一との即興演奏を生成する

YCAMともゆかりの深い、音楽家・坂本龍一と大友は、これまでピアノとギターというシンプルな編成で多くの即興演奏を行ってきました。大友による坂本へのトリビュート作品《Duo》は、AI等の音響解析や再現の技術は一切使わずに、ギターとピアノを物理的な仕組みによって鳴らすことで、2010年代の坂本と大友の即興演奏の特徴を再現します。本作品のためにYCAM InterLabは、大友によるギターの即興演奏の特徴を抽出し、自動演奏する装置を開発。また大友による監修の元、坂本の残したピアノの打鍵データ(MIDI)から即興演奏の特徴を再現。本人たち不在のもとで、永遠に演奏を生成し続ける作品です。

Photo:青山真也 / Aoyama Shinya

4.

18年ぶりのYCAMとのコラボレーション

2008年にYCAMで開催された大友の初の展覧会「大友良英/ENSEMBLES」は、それまでの音楽活動をさらに拡張する試みとして、多くのアーティストや市民との協働がテーマでした。YCAM全館を使って展示された、4つのサウンド・インスタレーション作品全てにおいて、その場で音楽が生成され、二度と同じ瞬間が訪れない仕組みをYCAM InterLabとの協働で開発しました。YCAMでは、その後も坂本龍一をはじめ、国内外の数々のアーティストとの協働を実現してきましたが、18年の時を経て再び大友とのコラボレーションが実現します。

Photo:青山真也 / Aoyama Shinya